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2022.03.10

農ライフは人生を豊かにしてくれる。武藤千春さんが耕す1000坪の畑

with who?

武藤千春

1995年生まれ。東京都出身。2011〜2014年、アーティストとして活動。 2015年より女の子が発信するメンズファッションという新しい試みの ユニセックスストリートブランド「BLIXZY(ブライジー)」のトータルプロデュースを行い、 企画・デザイン・PR・モデルなどをマルチに行う。 また、ラジオパーソナリティーやMCとしても活躍中。 現在は東京と長野県小諸市での二拠点生活を送り、畑での野菜作りに取り組む。 2021年に農ライフブランド「ASAMAYA」を立ち上げ、2022年には小諸市農ライフアンバサダーに就任。農ライフや地域・農家の魅力を伝えながらフードロス課題解決に向けた規格外・廃棄野菜のレスキュー活動も行うなど活動の幅を常に広げ、新しい生き方や価値観を発信している。

16歳からアーティストとして活動。
19歳で自身のファッションブランドを立ち上げ、トータルプロデュースを担当。

そんな華々しい経歴を持つ武藤千春さんは現在、
長野で約1000坪もの土地を一人で耕し、農薬を使わない野菜作りやワイン用のぶどう栽培に取り組んでいます。

「野菜に旬があるなんて知りませんでした」と振り返る彼女は、
どうして農を中心とした暮らしを始めたのでしょうか。武藤さんに話を伺いました。

農業未経験で始めてみた畑仕事

どうして長野で農業を始めようと思ったんですか?

話すと長くなるんですけど、COVID-19による最初の緊急事態宣言が出たときに、仕事もキャンセルになって時間がたくさんできたんです。そのときすでに東京と長野で二拠点生活をしていたのですが、長野での暮らしは始めたばかりで、友達もいなくて何をしようかなと。ずっと家にいるのも飽きてきて、ふと高校生のころから気になっていた家族のルーツを調べてみようと思い立ち、戸籍謄本を遡ったりお墓参りついでに調べたりして家系図を作ったんです。

すると今私が住んでいる長野県小諸市の隣にある佐久市に、ご先祖様の故郷があることがわかりました。すぐに足を運んでみたのですが、信号は1つしかなく、小学校は30年以上前に廃校になっていて、空き家だらけでなぜか自動販売機が1台だけポツンとあるような村でした。昔は多くの農家が住んでいたそうですが、今では農家は81歳と86歳のおじいちゃんの2人だけ。で、その86歳のおじいちゃんが私の遠い親戚だったんですよ。

すごい、実際に会えたんですね。どんな話をしたんですか?

農村の課題や困りごとをたくさん聞きました。耕作放棄地がたくさんあって、草だらけで虫や野生動物が頻繁に出るようになり、村にも被害が出ている状況でした。でも人口も少なく高齢の方が多いこともあり、なかなか解決は進んでいないそうで。

深刻だなと思う一方で、耕作放棄地って地域の課題としてよく取り上げられますが、それってもしかしたらこれから比較的自由に使える場所があるって考えると、とてもおもしろいなとも感じたんです。そう気づいたからには、何か私にできることはないかなと謎の使命感に駆られました。

でも何かやらなきゃと思っても、畑や農業のことなんて全然知らなくて。野菜に旬があることも知らなかったし、なんならスーパーマーケットに1年中食べ物が並んでいるから1年中採れるものだと思っていたくらいです。最終的にまずは親戚の20坪ほどの小さい畑を無料で借りることにしました。その畑は何年も使ってなくて草がボーボーでしたが、2ヶ月かけて刈り取り、春先に種を植えたんです。


どうして自分で畑をやってみようと思ったんですか。

課題って人に聞いてわかることもあるけど、聞いても出てこない細かいこともあるじゃないですか。いちいち言うほどじゃないけど、当たり前だと思ってやっていることとか。でもそれって本来他の手段で解決できる可能性もあるんじゃないかと思っていて。そういうことは自分でやってみないとわからないから、まずは畑を始めてみました。

自分の常識が通用しなかった野菜づくり

農業にもいろんなやり方があると思いますが、その中でも無農薬でされているそうですね。

農業って例え小さなスペースであっても、やり続けるのは結構大変だと思うんですよね。天気次第でできることも変わってきますし。自分が自然現象に適応していかないといけない難しさがある中で、自分が楽しみながら続けていくためには、なるべくお金をかけないことが大事なんじゃないかなと。だから道具はほとんど借りたり譲り受けたりして、結果的に種と鍬だけ買いました。

農業の知識はなかったので、YouTubeや本で学びました。ただ農薬のことや虫をどうやって避けるかは私には内容が難しかったし、やり方が十人十色なので自分の場合はどうしたらいいのかは全然わからなくて…。だったら自分の体や自然環境にとってもいい無農薬でやってみて、必要に応じて足したり引いたり、調整していけばいいかなと思い始めてみました。

すると意外と農薬を入れなくても野菜は育ってくれて、味もおいしかったんです。後々気づいたのですが、周りの農家さんも無農薬がいいから自然農法をやっているというより、やってみてできたから続けている方が多かったんですよね。

武藤さんが育てて収穫した野菜たち

始めてみてから苦労したことはありますか。

やっぱり知識がゼロだったので、わからないことだらけで、失敗もたくさんしました。種を植えたけど芽が全然出てこなかったり、芽が出てきてもすぐ枯らしてしまったり。ただそれは周りから見たら苦労なのかもしれないですけど、都会で生まれ育ち16歳から働いてきた身からすると、ここまで失敗が続くことや自分の常識が通用しないことはとても新鮮でした。

自分の意思でどうにもできないことって、都市部で働いていると意外とないじゃないですか。あの人に言えばどうにかなりそうとか、こんな風にしたらいけるんじゃないかとか。でも自然相手だとそうもいかない。私がもっとこうしたいと言っても、自然はその通りには動いてくれません。雨が降ってほしいと思っても、降らないじゃないですか(笑)。だから自然が野菜をつくってくれていて、私はその環境を整備している感覚です。苦労というより、面白いんですよね。

農業を始めて感じる変化

他の人だったら大変だと感じることであっても、武藤さんは楽しんでいたんですね。

そうですね、やり方次第だと思います。今は最初にもらった20坪の畑とその後借りた320坪の畑で野菜作りを、そして2022年からは640坪の畑でワイン用のぶどう栽培をしているんですが、私1人でやるにはこれが限界かなと感じています。

朝からひたすら野菜を収穫して、急いで搬出するみたいな感じだとやっぱり大変ですよね。でもそれ以外の方法でも、農を暮らしの中心に置きつつ、仕事につなげていくことはデザインできるはず。私はちょうど自分にあったラインを見つけられたので、楽しめているんだと思います。

武藤さんが借りた320坪の畑

農業を始める前後で、気持ちに何か変化はありましたか。

食事を楽しめるようになりましたね。美味しさはもちろんなんですが、あの農家さんがこんな風につくったんだなと思い浮かぶようになりました。特に無農薬で野菜をつくっている農家さんや自分の哲学をちゃんと持って取り組んでいる人はとてもおもしろくて。そういう農家さんの話を聞くと、この人の野菜はこう作っているから、オリーブオイルと塩だけで食べようとか。そんな風につくり手を想像しながら食べるのが楽しいです。

農業ってどこか大変なイメージがありましたが、武藤さんはとても楽しそうにしているのが印象的です。

やっぱり自分自身が面白がれていないと、自分や地球に優しいことであっても続かないと思うんです。とにかく自分がおもしろがれるポイントを見つけること。私の場合はそのポイントが人だっただけで、もしかしたら栄養素とか健康にいいとかの方がおもしろがれる人もいると思います。

農ライフの楽しさを伝えていきたい

楽しむこと以外に、農業をする上で大切にしていることはありますか?

自然をちゃんと見て感じて、その上で手を加えることですね。農業って自然に近いようで、実際はすごく不自然なことをしていると思っています。先ほど2ヶ月かけて雑草を抜いたと話しましたが、雑草って放っておいて勝手に育っているわけじゃないですか。私たちは「雑草」と決めつけていますが、その雑草も雨や風、太陽、土の微生物や窒素など自然の力によって育っています。雑草を抜くことって、そんな自然の営みを壊している行為でもあるんですよね。

自分が手を加えることで、自然の恵みやすごさをより感じるようになって、そうした影響に気づけたことは大きな学びでした。その気持ちを忘れず、純粋に楽しんでいくことで地球環境にもいい循環が生まれていけばいいなって。地球というと規模の大きな話に聞こえますが、身の周りの人が喜ぶとか地域が活性化するとか、そういった身近なことから始まってるんですよね。私はSNSで農ライフ楽しいよって発信しているんですけど、意外とおしゃれにできたりして、そうしたことを大事にしながら発信を続けていきたいなと。

周りの人からの反響も大きいですか。

大きいですね。地域の人たちはとてもおもしろがってくれていますし、以前アーティスト活動していたときのファンの方々からは「特定の誰かから野菜を買う選択肢なんてなかったです」という感想をもらうことが結構あって。私のYouTubeでは畑に種を植えている様子や、収穫の様子を載せているのですが、同世代を中心にすごく反響がありましたね。

“Farm to Table”とはよく言われますが、その逆の“Table to Farm”も大事。作り手がいるからご飯を食べれるし、食べる人がいるから作り手が成り立つ。農家さんのことを知って想像しながら恵みをいただくことが大事だと思っています。

今後どんなことを目指していきたいですか?

農を中心に置いた暮らしは人生を豊かにしてくれると感じています。都会にいると私も「足りないものは買えばいいや」と、どうしても消費が当たり前になってしまう。でも農ライフをしていると、「それ、作ればいいじゃん」という発想が自然と生まれてくるんですよね。

そうしたクリエイティブな力って、人は誰しも本来持っている。都会でやりたいことが見つからなくても、他の地域でなら見つかることもあります。同じ世代だから感じるのですが、いわゆるZ世代やミレニアム世代のクリエイティブ力は、農村で発揮されることも多いと感じていて、そのきっかけの一つが農になるんじゃないかと思うんです。都会にいると出会うきっかけが少ない農ライフも、一度出会うとハマる人も多いんじゃないかな。

そういう想いや関わっている人たち自身が楽しんでいることを知れると、私だったら仲間に入りたい。だからこそ、まずは自分が楽しんで発信を続けていきたいですね。

画像提供:武藤千春

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