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2021.10.13

ユーザーの9割が初心者。あらゆる人を循環の輪に誘うLFCコンポスト

with who?

ローカルフードサイクリング株式会社 代表取締役

たいら由以子

福岡市生まれ。大学を卒業後、証券会社に勤務。「たのしい循環生活によるパブリックヘルスの実現」のため「半径2km圏内での栄養循環づくり」をミッションに1997年コンポスト活動開始。2004年、NPO法人循環生活研究所を設立し、国内外にコンポストを普及。生ごみ資源100研究会を主宰、循環生活研究所理事、コンポストトレーナー、NPO法人日本環境ボランティアネットワーク理事など務める。

コンポストは自分たちも自然の一部であることや、自然の中に暮らしがあることを思い出させてくれる——。

前回の記事では栄養循環が私たちの生命を支えてくれていること、そのエコな循環を繋ぎ直すのに、コンポストが大きな役割を果たしてくれることを、暖かい眼差しで力強く話してくれたローカルフードサイクリング代表のたいらさん。

お話はさらにローカルフードサイクリングが開発した『LFCコンポスト』の仕組みや、目指すエコな循環へと広がっていきます。LFCコンポストのユーザーは約9割が初心者で、東京など都市部に住んでいる人がほとんど。家庭菜園やご家庭にお庭を持っている人が使っているイメージが先行するコンポストに対して、新たな循環の輪を耕しているLFCコンポストの開発ストーリーを聞きました。

往来のコンポストの課題を解決する「LFCコンポスト」

前回の記事の最後に、都市部でも地に足ついた暮らしができると話されていました。LFCコンポストは都市部に住んでいる人を想定して開発されていますが、都市部向けならではのポイントはありますか?

2004年に土や堆肥づくりによる循環するエコな暮らしを広めるためにNPO法人循環生活研究所を始めたところ、すぐに年間300本くらいの講演依頼がくるようになりました。年間約8万人に直接コンポストを説明して使ってもらうと、いろんな課題やボトルネックがあることがわかったんです。その後も研究や調査を続けた結果、特に都市部でコンポストを普及させるためには「虫が嫌い」「相談できる人が身近にいない」などの課題を解決しないと、コンポストを始めても続かないと気がつきました。

こうした課題を解決するのが、私たちが開発したLFCコンポスト。なるべく虫が入らないような設計や、基材の定期便、コンポストアドバイザーに相談できるLINEアカウントなど、コンポスト自体の設計はもちろん、周辺のサービスも整えています。LINEでは私や、私みたいなコンポストオタクがユーザーのお悩みに回答しています。回答が早いせいかよくAIが回答していると思われるんですけど、ちゃんと生身の人間が答えています(笑)。

トートバッグの素材についても、開発当時韓国や中国がペットボトルの輸入を止め始めていたころだったので、国内産のペットボトルをリサイクルしてバッグをつくることにしました。海外でつくられたペットボトルを輸入してもよかったんですけど、それは結局ペットボトルを輸入しているのと同じこと。それでは意味がないので、国内で一緒に取り組めるところを探し回って、イチからつくってもらいました。

LFCコンポスト

LFCコンポストの使い方


コンポストの普及に努めてこられたことが、随所にいきているんですね。堆肥づくりという観点では基材(生ごみと混ぜ合わせる原料)が大事だと思うのですが、LFCコンポストならではの特徴はありますか?

基材は自然素材で地域の有機性廃棄物になっているものを使っています。基材の配合も年々少しずつアップデートしているんですよ。

特徴としてはやはり長年研究と改善を重ねてきて、使いやすさが抜群にいいことでしょうか。具体的には臭いが出にくかったり、虫が入りにくい構造にしていたり、生ごみがたくさん入る容量だったり。とにかく使いやすくないと、いくら環境にいい、エコであると言われても続きませんから。だからまずは何より快適さを追求しています。

現在どれくらいの人がLFCのコンポストを利用されてるんですか?

今は2万人を超えています。しかも約90%近くが初めてコンポストを使う人たちで、それがめちゃくちゃ嬉しいんですよ。普及活動をやっていたころは、経験者の相談に乗ることが多くて。私たちのコンポストがこれまで経験したことのない人たちの行動を後押しできていると思うと、本当に感動です。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の評価報告書を見ると生命が共存する限界値を超えているのが明らかで絶望しかないんですけど、今すぐだったらまだ折り返せるんですよね。

9割の人が生ごみを捨てている現状は、可能性に満ちているとも思いませんか? 私はそう思うんですよ。しかも、コンポストをすると生ごみが減るだけでなく、生ごみにまつわる循環全体がよくなっていく。コンポストの普及活動をがんばるだけの価値はすごくあると思っています。

自分でつくった土で野菜を食べる

トートバッグ型のコンポストは珍しいと思うのですが、どうしてこの形にしたんですか?

コンポストでできた堆肥を循環させたいんです。前回の記事で半径2km圏内の循環について話しましたが、半径2km圏内にはだいたいマルシェがあるので、堆肥を持っていったら農家さんが野菜を割引や交換してくれる仕組みをつくりたいなと。トートバッグ型ならつくった堆肥を入れたまま持ち運べるじゃないですか。

LFCコンポストのユーザーは、都市部がダントツで多いんです。東京では新宿や渋谷で相談会も兼ねた回収イベントも開催しています。回収した堆肥で野菜や果物をつくってくれる農地を増やそうと、東京近郊の農家さんを渡り歩いているところです。

LFCコンポスト
左が「LFCコンポストセット」、右が「LFCガーデニングセット」。いずれも袋や基材、専用の説明書などがセットで送られてくるので手軽にコンポストを始めることができる。

都市部だと堆肥の使い道に困りそうなので、回収してくれるのはいいですね。でも農家さんからすると、いろんな食べものからできた堆肥を使うのに抵抗を感じることはないんですか?

そうなんですよね。私たちの堆肥を使うと農作物がどうなるのかがわからないと、農家さんも使うのが怖い。それで15年前から農家さんと一緒に「小さな循環ファーム」という仕組みをつくって、私たちの堆肥を使って野菜を栽培しているんです。実際に食べてもらっておいしさを感じてもらうことはもちろん、成分分析をして結果をみてもらうことで、堆肥と何を組み合わせるとよりよい野菜づくりができるのかを相談しています。

他にも食品添加物などの化学物質を微生物がちゃんと分解してくれるのかとか、排水溝のごみだけで堆肥をつくってみて成分分析をしてみたりとか。いろんな実験を積み重ねて、その結果もお伝えしています。

人間はいろんな生物に支えられて生きている

コンポストや堆肥についていろんな実験や研究をされているんですね。

他には虫の予防についてもずっと研究をしています。やっぱりコンポストを嫌がる大きな理由の1つは虫なので。LFCコンポストは虫が入りづらい構造にしていますが、虫が出たときにどう接すればいいのかもお伝えすることで、安心してもらえると感じています。

コンポストは微生物の力を借りて堆肥化していますが、微生物や虫といった生き物とどう向き合っていくといいと思いますか?

昆虫学者エドワード・O・ウィルソンの著書にも「昆虫類が滅んでしまえば、陸上生態系は崩壊し、カオスとなってしまう(※)」というシナリオが紹介されていましたが、人間の生存には虫が不可欠。それくらい私たちはいろんな生物に支えられていて、いわゆる生物多様性がないと人間は生きていけないんですよね。

例えばよく発生するアメリカミズアブは、受粉を手伝ってくれる循環の構成員。アブを見ると虫が嫌いな人は「ぎゃー」ってなりますが、私たちと同じものを食べて育っている虫だし、とても優しいので刺したりもしません。分解者としてはとても優秀で、生ごみの中に入ると分解速度が数十倍から数百倍早くなります。

こうした虫の役割を知ると、見方が変わってきませんか? 実際ユーザーさんにはアブの卵を見つけて生ごみに入れた人もいるくらいです(笑)。ちょっと極端な例かもしれませんが、虫や微生物の役割を知っていくと、自然の循環と結びついていきます。こうしたことを理解する教材としても、コンポストは最高なんですよね。

※:『創造 生物多様性を守るためのアピール』(エドワード・O・ウィルソン著)p.55


LFCコンポスト

相手のことをよく知らないから、怖がってしまうといったことはありますよね。

殺虫剤ですぐ殺してしまいがちなダニだって、人間に悪さするのはダニ全体のうちの数%程度。ダニはいろんなものを分解してくれるから、ダニがいなくなると世界中死骸だらけになったり、木や植物も分解されずに残ってしまう。生き物すべてに役割があることを知るのも大事ですよね。

人間が環境を破壊しながら暮らしている中で、虫や微生物は生ごみを循環させて化学肥料や農薬を減らすために、「こんにちは」と私たちの元に来てくれていることを知ってほしい。ちなみにどうしても虫や虫の卵が嫌だったら、専用の歯ブラシを置いておいて払うようにしたり、目が悪くてメガネをかけている人は生ごみを入れるときだけメガネを外してやると気にならなくなりますよ。

循環とは先を見て、思いやりを持てるようになること

たいらさん自身はコンポストを続けていて、どんないいことがあると感じていますか?

土を混ぜると疲れが取れ、元気になることはありますね。あとは自分で生ごみを処理できるようになると、「できた!」とモチベーションが上がります。

堆肥って毎日違う顔を見せてくれるんですよ。今日は温度が低いから分解してないのかなあとか。ちょっとしたペットを飼っているような気持ちになるので、家族が増えた感覚にもなります。

SDGsやコロナなど本当に何とかしなきゃと思っても、大きなことに対する自分のアクションに無力感を覚えてしまうこともあります。でもコンポストだったらちゃんとやれば堆肥ができるので、達成感や自己肯定感を味わうことができます。さらにできあがった堆肥でおいしい野菜が家庭でできるので、体も健康になりますね。

循環を実現することは、今やっていることの次やその次を予測して、思いやりを持って取り扱えるようになることだと思うんです。先を予測できるようになると、視野が広くなってきますよね。

循環が思いやりを育むという捉え方はとても素敵ですね。

AIやリモートワークなどが普及する中で、手触り感のある暮らしや手仕事を伝承することって命に関わると思ってるんです。昔には戻れませんし、コンポストは一般的なイメージでは面倒だと思う人が多いかもしれないけれど、私たちのコンポストは1日1分混ぜるだけで循環の輪に参加できる。その手軽さや短時間でできるような設計にはすごくこだわっています。コンポストが家庭にある方が日々の暮らしは絶対楽しくなりますよ。

もう時間がないといつも思っています。2030年には生ごみ資源化率100%を目指したい。そもそも2014年ごろに、このまま生きていては達成できないかもと思うようになって、LFCコンポストの開発に踏み切ったんですよね。エコな栄養循環を加速させるために、いろんなこととつながっていかないといけない。どんな行動から始めてもいいと思うんです。食べものにこだわって、オーガニックやヴィーガンに興味を持った結果、コンポストにたどり着く道もあるはず。生ごみを食べものに変えるエコな仕組みに、ぜひ自分ごととして参加してもらえたら嬉しいですね。



INTERVIEW & TEXT BY TOMOHIRO NAKATATE
PHOTOGRAPHS BY LOCAL FOOD CYCLING

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