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2021.09.15

エシカルは正解を定義しない。エシカル協会が考える、よりよい未来への道筋

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一般社団法人エシカル協会 理事 / 株式会社オウルズコンサルティンググループ プリンシパル

大久保 明日奈

金融機関、ITアドバイザリーファーム、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社を経て現職。株式会社オウルズコンサルティンググループ在籍。慶應義塾大学経済学部卒業。英国ユニバーシティカレッジロンドン(UCL)都市開発経済学修士課程修了。デロイト トーマツ コンサルティングでは、民間企業のサステナビリティ戦略立案や経済産業省のASEAN地域を対象とした政策立案など多岐にわたるプロジェクトに従事。 NPO/NGOの事業計画策定、NPO法人と連携したガーナにおける児童労働廃絶の仕組み作りなどにも携わる。Social Impact委員会の事務局運営も担当。エシカル協会にはコンサルタントとして関与した後、2020年9月に理事就任。現在在籍しているオウルズコンサルティンググループでは、ビジネス戦略、サステナビリティ戦略をテーマとするプロジェクトに従事。労働・人権分野の国際規格「SA8000」基礎監査人コース修了。

さまざまな情報が飛び交う時代、
どこか心の拠り所としての“正解”を求めたくなってしまう。

どんな行動や商品が、人や地球環境にとっていいことなのか。
悩まない人はいないのかもしれません。

そんな中、エシカル協会理事の大久保明日奈さんは、
「正解を探すよりも、一人ひとりが自分で考えることが大事」だと話してくれました。

自分で考えるとはどういうことなのか。エシカルという考え方をもとに、大久保さんに話を伺いました。

自分の中に良心という「ものさし」をもつ

まずはエシカル協会が「エシカル」をどんな意味で使われているのか、教えてください。

エシカルの語源は英語で、直訳すると「倫理的な」という意味です。倫理とは法律的な縛りはなくても、多くの人たちが正しいと思っていること。つまり、本来人間が持つ良心から発生した社会的な規範こそがエシカルです。語源としてはそういう意味なのですが、ちょっとわかりづらいところもあるので、もう少しイメージしやすいように私たちは「人、社会、地球環境、地域に配慮した考え方や行動」という意味で使っています。自分の良心が正しいと思うことを行うことと、人や地球環境に対して自分の頭で考えて配慮していくことは、本質的には同じだと思っています。

「良心」というと人によって解釈が違ってきそうですね。

エシカルも人によって捉え方が違うものだと思っています。それぞれの人が何を持って正しいか正しくないかといった判断をするために、自分の中に「ものさし」を持つこと自体が大事です。自分のものさしがあるからこそ、それと照らし合わせて「これはやっていい」「これはやりたくない」と決めていくことができるんです。

エシカルという言葉自体、すごく広い概念なんですよね。ある側面から見るとエシカルだけど、別の側面から見るとどうだろうと判断に悩むこともあります。そんなときに大事になるのが、良心、すなわち自分の中のものさしなんです。自分にとって何が重要で、どんなことに配慮していきたいのか考えていくこと自体が、とても大切だと思っています。

「考えること」について、もう少し教えてください。

私たちはエシカルを「エいきょうをシっかりカんがえル」とも表現してて、エッセンスが詰まっていると思っています。自分の行動一つひとつがどんな影響を与えるのかを考えること。例えば、食べもの一つ買う場合でも、生産者に対価をちゃんとお支払いしている原料から生まれたものなのか、それとも単に安いものを選ぶのか。何を買うか、あるいは買わないかを含めて、自分の行動による影響を考え続けること自体がエシカルなんですよね。

人ひとりが良心というものさしで考えて行動していくと、社会はどうなると思いますか。

例えばヨーロッパは一人ひとりがサステナブルな社会や未来を実現したいという想いがムーブメントになり、企業や社会を変えていっています。グレタ・トゥーンベリさんのように次の未来をつくる若者たちが動いたことが、企業の行動を変えるきっかけの一つになった。もちろん、北欧という気候変動の影響を比較的受けやすい地域だからこそ、アクティブな動きにつながった側面もあると思います。

日本でもサステナブルやエシカルが注目されているのは、すごくポジティブなことだと思います。一人ひとりが意思表示をしていけば、企業を変える力にもなりますし、最終的にはサステナブルな社会の実現につながっていく。私たち一人ひとりの一歩が、いつか大きい力を生むんじゃないかと思っています。

1つの正解より、一人ひとりが考えることが大切

エシカルという言葉自体は、何がいいか悪いかを定義していないんですね。

正解って一つだけじゃないと思うんです。しかも正解をつくってしまうと、むしろ強制に近い形になってしまい、一人ひとりの考える力は恐らく失われてしまう。次にまた新しい課題が出てきたら、答えをくださいとなってしまうと、社会の在り方を誰かに決めてもらわないといけなくなってしまう。個々人が考える基礎となる力を培っていくことも大事だと思うんです。

なぜなら正解は絶対的なものではなく、シチュエーションによって変わりゆくものだと思っているからです。一人ひとりが自分の中のものさしと照らし合わして、何が正解かを考え続けて行動していく方が、大きなゴールに向けての筋道が多様化していく。すると、Aの道の方がいいと思ったけど、こんなソリューションがあるならBの道の方がいいかもといったことが起きる。多様であることが、よりよい未来をつくる力になるんじゃないかと思います。

いろんな考え方やアプローチがあった方が、結果として社会はよくなると。

そうですね。例えば、社会的な観点で、どんな人たちがどういう原材料で作っている洋服なのかという背景を知ってから購入する人もいれば、環境的な視点から、納得できる素材を使っているから購入する人もいます。人によってばらつきがあって当然ですよね。

最初の敷居を高くしすぎると、そもそも誰も取り組めなくなります。サステナビリティなんてもう嫌だとか、エシカルなんて意味がないといった拒否反応につながりやすい。まずはできるところから始めることが大事だと思います。いつも飲んでいるコーヒーの豆はフェアトレードなのか調べてみたり、オーガニック認証を取っているかラベルをチェックすることも、考えることの一歩です。

そこからだんだん歩みを進めていくと、認証ラベルってそもそもどういう意味があるんだろうとか、認証ラベルがついていなくてもサステナブルなものってあるんじゃないかとかが気になりだしてきます。情報収集を繰り返して、自分の中での判断軸ができていくんです。

やっぱり行動自体がサステナブルでないと、本人にとってもつらいですよね。がんばりすぎて息切れしてしまうと、結果として社会を変える力には至らない。まずは自分自身がサステナブルに楽しんでできることが大切だと思います。

エシカルな活動を無理なく続けるにはどうしたらいいのでしょうか。

まず、そもそも初めてエシカルな行動を始めるとき、多くの人はまず最初にショックをうけます。身の回りのことを知っていくと、途上国の児童労働の問題や動物福祉の問題など、ときには目を背けたくなるような現実と向き合うことは避けて通れません。

例えば普段食べている卵が、実はとても狭いケージの中で育てられた鶏が産んだものだという事実を知ってしまい、ショックをうける人は多いんです。その後、世の中の課題に気づいた上で、これまでと同じ行動をするのか生活スタイルを変えていくのか、自分で考えて選択していく。私たちが開催している『エシカル・コンシェルジュ講座』の受講生の変化を見ていても、自分がつくりたい未来に対して自分自身が選び取っているという自覚を持つことが、その人の心の幸福につながっているように感じますね。


エシカル・コンシェルジュ講座の様子(※2021年9月現在はオンラインのみ)

問題に取り組まないと、その一部に自分がなってしまう

先ほど、エシカルについて学んでいくとまず最初にショックをうけるとのことでしたが、ショックなことと向き合い乗り越えるためには、何が必要だと思いますか。

すごく難しいことですよね…。そもそも「乗り越える」こと自体が、すごく高いハードルな気がしています。私も動物福祉の問題を知ってから平飼いの卵を選んでいますが、いまだにこの問題のニュースを見るとショックをうけます。社会課題が解決されて、課題に対して目を向けなくてすむ状況にならない限りは、「乗り越える」ことにはならないのではないかと感じています。

エシカルな活動に取り組む人の中には、一人ひとりの行動に対する反応がすごく小さいので、「この行動を続ける意味があるのだろうか」と悩む人もいます。でも、問題に対して取り組まないことは、その問題の一部に自分がなってしまうことだとも思うんです。

少なくとも私はどんなに小さな力でもいいから、問題を解決する一部にはなりたい。だから、乗り越えられないかもしれないけど、自分を奮い立たせて一歩踏み出すことを止めません。それは小さな一歩かもしれないですが、自分自身にも社会にもすごく大事なことだと思います。

「問題を解決する一部になりたい」と思うようになったきっかけは何だったんですか。

記憶に残っているのは、イギリスの大学院に留学して開発経済学の修士号をとったときのことです。経済成長と開発の関係を調べるため、ペルーのアマゾン川流域の町に1ヶ月ほど滞在しました。当時衝撃をうけたのが、町から車で1〜2時間ほど離れたアマゾン川流域の奥地に、観光地によくあるホテルがたくさん建っていたこと。現地の人に聞くと、経済的に豊かになるためには外貨が必要で、観光客を受け入れるために開発が進んだとのことでした。

こうした事例は開発経済学では、よく聞く話ではあるんですよね。グローバル経済の中で資本を獲得して、途上国の現地の人たちが豊かに暮らせるようになるのは1つのモデルだと思います。ただ、そのとき現地の人の話で印象的だったのが、「経済は潤うけれど、昔からその場所にあった伝統的な雰囲気や文化は捨て去られてしまう」ことでした。

たとえ日本から遠く離れたところであっても、自分がものを買うことや観光など日常の選択による影響があるんだろうなと肌で感じたんですよね。そのとき社会課題に本当にちゃんと向き合っていきたいと思ったんです。一人で完結するものって恐らくこの世界にはなくて、日本も他の国も繋がっているんだと鮮明に感じました。

社会課題を知らないままの自分だと、物事はどんどん悪化してしまうのではないか。課題に対して何かしらポジティブな力を生める存在になりたいと思ったんです。その想いがキャリアにも影響していると思います。ペルーでのできごとは、自分にとっては強烈な原体験でしたね。


ペルーのアマゾン川流域でココナッツを売る商店

自分のことを考えるためにも、日常の中で一息つく時間を

これまでエシカルな活動に取り組まれてきた大久保さんには、今の社会はどう映っていますか。

状況はどんどん難しくなっていると感じています。脱炭素の動きが広まってきていますが、それ以上に気候変動がもう待ったなしの状態となっています。サプライチェーン関連では、人権問題が関心を持たれるようになったことはすごくポジティブな動きですが、中国の新疆ウイグル自治区で起きているとされる強制労働問題など、まだまだ解決すべきことは多いです。

でも、10年、20年前と比べると私たち自身が問題にちゃんと目を向けるようになったのは、ポジティブな変化だと思うんですよね。問題を意識しないと、取り組むこともできないですから。少しずつではありますが、社会はいい方向に変わっていると感じています。

もはや経済成長だけしていれば、他の問題は目をつぶってもいい社会ではなくなっています。多様な価値観や社会課題がある中で、一人ひとり自分が何をしたいかを考えることのできる社会になれば、すごくポジティブなエネルギーで満ちていくと思うんです。エシカル協会の活動も1つの力になれたらと思い、頑張っています。


法人会員ミーティングの様子。エシカル協会は寄付・会員制度を導入しており、多数の法人会員が活動に参加している。

一人ひとりが自分のことに目を向けるためには、何が必要だと思いますか。

これは身も蓋もない話かもしれませんが、心の余裕はすごく必要だと思います。例えば仕事に忙殺されていると、ちゃんと考えてものを買うことなんて中々できないですよね。いろんなことに目を向けて、自分を変えていくのは大変なことだと思うんです。どんなに小さな変化だったとしても、行動を変えることには何かしらの意思決定が伴います。

今の世の中は多忙な人が多いと思いますし、私自身も余裕がないときはあります。そんなときには日常生活の中で立ち止まって一息つく時間があるかどうかで、心持ちがかなり変わると思います。あとは、仲間がいるといいですよね。行動するのは自分一人だとしても、仲間がいるとモチベーションも上がりますし、仲間と話す中で「やっぱりこれは大事だな」と気づかされることもあります。ポジティブなエネルギーを持っている仲間がいることは、行動していく上でもいい影響があると思います。

心の余裕を持つために、意識して取り組んでいることはありますか。

自分のための時間をつくることは意識していますね。ずっと仕事だけをしていると、余裕やクリエイティビティがなくなっていくような気がするので。だから最近は忙しくても、あえて自分の時間をつくって好きなことをして気持ちをリセットさせるようにしています。

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INTERVIEW & TEXT BY TOMOHIRO NAKATATE
PHOTOGRAPHS BY ETHICAL ASSOCIATION

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