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2021.06.22

体に優しい、素材本来の味を。北海道発「長沼あいす」が作るプラントベースアイス

with who?

株式会社長沼あいす 専務取締役

山口 貴巨

1974年札幌生まれ。1997年、会社勤めを辞めて長沼あいす入社後、アイスクリーム、ケーキづくりを一から勉強。レベルアップのため一時的に会社を離れ修業する。現在はその知識を生かし、積極的な営業をしかけて販路を拡大中。2018年の4月には、台湾に個人で法人を立ち上げ、アジアでの販路を拡大。北海道から全国、さらに海外へと北海道スイーツを発信し続けている。

生乳にこだわっているアイス屋さんに、生乳を使わないプラントベースアイスを作ってもらうーー。

同じ「アイス」というくくりであっても、通常のアイスとプラントベースアイスでは素材はまったく違うもの。ある意味プライドを傍に置いて取り組むことになるアイスづくりを引き受けてくれたのが、北海道長沼町を中心に「あいすの家」を展開する長沼あいすだ。

COMMEARTHが米澤文雄シェフとコラボしてできたプラントベースアイスは、どんな方々の手によって製造されたのか。長沼あいすの専務取締役である山口貴巨さんにお話を伺いました。

搾りたての生乳を使った、手作りアイスクリームの誕生

あいすの家は山口さんのお父様がオープンしたお店ですね。どうしてアイス屋を始められたのでしょうか?

父は当時酪農家に輸入機械の販売をしていました。酪農家を回っていく中で、やっぱり北海道の牛乳はおいしいなと感じていたそうで。それでおいしい生乳を使ってソフトクリームを作りたいと思ったのがきっかけです。

もともと自分でお店をやりたいとはずっと口にしていて、サラリーマンでは終わらないぞという想いは強かったんだと思います。オープンする数年前から準備をしていて、僕や兄が3月に大学を卒業すると6月にはもうお店を開いていましたから。今から27年前、父が50歳のときでした。

長沼町にはどんなご縁があったんですか?

父の目論みでは駐車場が大きくないとダメだと考えていて、暮らしている札幌市内ではいい土地を見つけられず紹介いただいたのが長沼町でした。子どもも親離れするタイミングで、夫婦2人が暮らしていければいいくらいの考えだったので、ソフトクリームの機械だけおけるスペースがあればいいよねと。最初のお店は今よりずっとこじんまりとした感じでした。

オープン後の反響はどうでしたか。

最初の1年は売り上げもそこそこという感じでした。2年目にアイスクリームの販売を始めたときに、新聞が「生乳をいかした手作りアイス」と取り上げてくれたんです。影響力はすごく、掲載されてからは平日は2,000人、週末は3,500人ほど来店いただけて。朝からずっと人が並んでいる状態で、閉店時間を過ぎてもまだ人がいるくらいでした。

大反響ですね。

取材もたくさんしていただけるようになり、当時起きたソフトクリームブームの火付け役として、長沼や札幌の方々を中心に知っていただけるようになりました。反響は3年くらい続いて、僕も兄も別の会社に勤めていたのですが、どうにも手が回らないので戻ってくることに。父もここまで盛り上がるとは思っていなかったでしょうね。

「水を使わないアイスクリームなんて、あるわけないでしょう」

「ソフトクリームブームの火付け役」とのことですが、何がお客様に響いたと思いますか?

いたってシンプルなんですけど、手間暇かけたことが報われたのかなと。毎朝ポリタンクを何十個も持って牧場に行き、搾りたての生乳をいただいて使っていました。

何を当たり前のことをと思われるかもしれませんが、商品として世に出回っているソフトクリームって牛乳は使わず、生クリームに脱脂粉乳や砂糖を入れて最後に水で溶く方法が主流なんですよ。一方僕たちは生乳に生クリームを入れて、砂糖や練乳で甘さを調整しています。当時そんな、ある意味面倒なやり方はどこもやっていませんでした。

他にも、牛乳は高温殺菌すると味が壊れてしまうので、必ず低温殺菌にして牛乳そのままの味を残すようにしたり。一つひとつはシンプルなんですけど、それらが味としてちゃんと評価いただけたんだと思います。

どうしてそこまで手間暇かけられたのでしょうか。

北海道の生乳がすごくおいしくて、その味をそのまま生かしたいという想いが強かったんだと思います。先ほどお話ししたように、既存のソフトクリームの多くは水で薄められた状態。一方僕たちは、加水ゼロ。水を一切使っていません。同じ「乳脂肪分8%」であったとしても、作り方がまったく違います。

以前中国にアイスクリームを輸出した際、中国に提出する成分表に水を何%使っているか書きなさいと指摘されて。僕たちは使っていませんと伝えたら、「そんなアイスクリーム、この世にあるわけないでしょう」と言われてしまいました。結局水を使っていないことを信じてもらうのに、何度もやりとりしましたからね…。それぐらい水を使うことが当たり前の業界なんですよ。

加水や添加物などを極力使わずに、素材そのものの味を生かして作られてるんですね。

結局、添加物をなぜ入れるかというと、日持ちさせたり味を強くしたりするためなんですよね。素材によってはどうしても使わないとダメなものもあるんですけど、根本的な考え方としては濃厚なミルクを使っているので、純粋にそのままの味を出せば添加物を使う必要はないかなと。

添加物をどうしても使わないといけないときって、どういうときなんですか?

ソフトクリームもアイスクリームも水と油なので、冷凍しても時間がたつと分離してしまいます。それを防ぐために、安定剤を入れる必要があります。入れる量としては全体の0.2〜0.3%なんですが、それでも入れないとダメで。ただ、僕たちは自然由来のものにこだわっているので、豆類から採ったものを使用しています。ケミカルなものではないのですが、安定剤は安定剤なので、添加物扱いになります。

こだわりの生乳が使えない。それでも開発に挑戦したプラントベースアイス

今回、米澤シェフオリジナルのプラントベースアイスの製造をお願いさせていただいたのですが、最初に依頼があったときはどんな印象を持たれましたか。

実は、お話しがあるまでプラントベースアイスを食べたことがなかったんです。これまでずっと生乳を使ってアイスクリームを作ることだけやってきたので、「生乳を使わずにおいしいアイスクリームなんてできるわけない」と思っていました。

米澤シェフが作ったプラントベースアイスを試食してからは、こんなにおいしいものができるのかとビックリして。すぐに考えを改めました。プラントベースやヴィーガンについても勉強するきっかけになり、地球環境を考える上で必要なことだなと知ることができたのもよかったですね。その結果、今回のアイスは乳製品不使用、白砂糖不使用、グルテンフリーかつヴィーガン対応という、新しい領域に挑戦でき非常にワクワクしました。

初めての製造とのことですが、どういうふうに取り組まれたんですか?

レシピは米澤シェフが考案してくれていて、製造工程はアイスクリームの方法をベースにほとんど変えずに作りました。通常のアイスクリームだと乳成分や油分が生乳に入っていますが、プラントベースやヴィーガン向けには使えないので素材探しには苦労しましたね…。


例えば生乳の代わりにはココナッツミルクを使っています。ココナッツミルクやカシューナッツなど、使用した素材はどれもそんなに出回っているものではなかったため、なんとか探し出した数社から選びました。特殊な素材が多かったので、味を生かすために煮出したりと工程も増えてしまって…。レシピ通りにつくったら原価がすごく高くなり、そのまま販売すると1個900円に(笑)。

なかなかなお値段ですね(笑)。味はどうだったんですか?

米澤シェフからはありがたいことに、「僕がつくったものよりおいしい」とほぼ一発OKをいただきました。ただ原価が高かったので、工程や素材の見直しをして2回目の試作で完成。

ただ色味だけは、みなさんがイメージされるような色とは少し違うものになっているかもしれません。着色料を使ってないので、素材だけで色味をはっきりと出すことは難しいんです。ある意味、これが自然の色味なんだと感じてもらえると嬉しいですね。

攻めて攻めて、未来を切り開く

プラントベースアイスの開発は初めてとのことでしたが、前例のないことに踏み出せたのはなぜでしょうか?

現状維持だったらおもしろくないですよね。失敗することのほうが多いかもしれないですけど、攻め続けた中で一握りでも成功してくことにおもしろさがあると思うんです。常に新しいことにチャレンジし続けたい。

父は職人気質でしたが、僕は同じものを作り続けるとすぐ飽きるタイプなんです。兄が社長を継いでこれまでの長沼あいすを守ってくれているので、僕の役割は父ができなかった新しい長沼あいすをつくることだと思っていて。そのためにも、とにかく出歩いて人に会って、新しい仕事につなげていっています。

ほとんど会社にいないので、当初父は「現場を手伝え」とよく言ってましたが、最近ようやく認めてくれたような気がします。今は毎日がすごく楽しいですね。

新しいチャレンジをしていく上で、大切にされていることはありますか?

素材の味を大切にすることです。よく視察でいろんなお店を食べ歩くことがあるんですけど、正直、食べても何の味だかよくわからないものって結構あるんですよね。全然素材の味がしない。商品の裏面を見ると、おおよそどう作っているかは検討がつきます。

だから僕たちは胸を張って何を使っているか言えないものは作りません。こだわりが強くなるほど原価は上がりがちですが、目を瞑ってでも何を食べているかわかるようなものを作っていかないとダメですね。

プラントベースアイスを開発してみて、何か変化はありましたか。

僕たちは生乳を大事にしています。ただ、牛のゲップから出るメタンガスは地球温暖化の大きな原因の1つとされています。ではすぐに生乳の使用をやめるのかといったら、職を失う人もいるでしょうし簡単に決断できることではないと思うんです。これからの乳製品業界を考えると不安も大きいですし、どうしていくのかはまだはっきりと結論が見えているわけではありません。

それでも作り手としてまず自分たちができるのは、なるべく添加物を使わず体に優しいものをお届けすることなのではないかなと。今回プラントベースやヴィーガンについて勉強させてもらったので、今後はより地球にも人にも優しい食を作り続けていきたいですね。



INTERVIEW & TEXT BY TOMOHIRO NAKATATE
PHOTOGRAPHS BY RYO KUDO

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