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2022.02.18

トレーサビリティが高い商品がもたらす体験とは。ファーメンステーションが目指す想いがめぐる社会

with who?

株式会社ファーメンステーション代表取締役

酒井里奈

国際基督教大学(ICU)卒業。富士銀行(現みずほ銀行)、ドイツ証券などに勤務。発酵技術に興味をもち、東京農業大学応用生物科学部醸造科学科に入学、2009年3月卒業。同年、ファーメンステーションを設立。研究テーマは未利用資源を用いたエタノール製造、未利用資源の有効活用技術の開発。好きな微生物は麹菌。好きな発酵飲料はビール。東京都出身。

循環の輪をあえてすぐにつくらず、たくさんの仲間をつなげて広げていく循環の方がおもしろい——前回の記事で循環に対して独自の考え方を語ってくれたファーメンステーション代表の酒井さん。ファーメンステーションでは未利用資源を活用して、誰がいつどこでどのようにして作ったのかトレースできる原料を製造。さらには原料を活用したオリジナルブランドやコラボ商品の開発まで取り組まれています。

原料や商品の由来がわかることは、私たちにとってどんな体験をもたらしてくれるのか。原料から商品開発まで一気通貫で手がけるファーメンステーションが考える「サステナブルな商品」とは。インタビュー後編記事をお届けします。

トレーサビリティは想いの循環のきっかけ


ファーメンステーションは原料開発だけでなく、オリジナルブランド『FERMENSTATION』も展開しています。こちらはどんなブランドなんですか?

私たちが作っている原料はもちろん、由来のわかるトレーサビリティの高いものや天然由来のものを使うようにしています。ファーメンステーションは未利用資源を再生して循環させるブランドなので、どんな原料を使うかはとても大事にしていますね。

あとはやっぱりプロダクトとしてすごく愛される、ずっと使っていただけるような商品を作りたいと思っています。そのためにもファーメンステーションの原料は肌触りなどできるだけ肌への刺激が少なくなるよう心がけていて、とても優しいんですよ。

FERMENSTATIONを使ってくださる方の生活が、未利用資源を使うことでハッピーになることはもちろん、未利用資源や発酵といった背景を知らなくても商品としてすごく気持ちがいいと思ってもらえるものを目指しています。あまり背景を押しつけてしまうのも、何だか違うかなと思うので。ありがたいことにリピートしてくださる方も多く、ずっと使っていますとメッセージをいただくこともあります。

ファーメンステーションが原料開発で大切にしていること

トレーサビリティが高まることで、ユーザーの体験はどう変わると思いますか?

トレーサビリティにこだわるのは、由来や背景を知ることで想像性が高まり産地のことを知るきっかけになるなど、ファーメンステーションのことに限らず関心が広がりお客様の人生が豊かになると思っているからです。実際、私自身は都会で生まれ育ったこともあってか、どうやってお米ができるのかも知らないで大人になりました。大学の研究で岩手に通うようになってから、お米は種からできることや苗づくりの存在を知ったんです。

田植えや稲刈りをいつやるのかもわからない状態でお米農家さんとのお付き合いを続けていると、人生の視野が広がったんですよね。以前は台風がきても自分ごととして考えられていなかったのですが、今は産地のみんなは大丈夫かなとすごく心配になります。

作り手の顔が見えると個人的な体験として想いを馳せることができるんですよ。どの国でいつ誰がどうやって作っているのかわからないものより、それらがわかっているものの方がおもしろいし、想いを抱くこともできる。そういう想像力を多くの人が持つようになれば、もっと社会をよくする行動を取りやすくなると思うし、知る楽しみを体感できることがとても大事だと思うんです。

ブランドを続けられていてお客様からの反響など手応えを感じることはありますか?

ブランド発足時からのお客様の中には私たちのお米を作っている岩手県奥州市の農家「アグリ笹森」さんを知っていて、「そろそろ田植えですよね」「今年の作付けはどうですか」とメッセージをくださる方もいます。以前産地ツアーをやったことがあって、そのときにも来てくださって農家さんと仲良くなってお米を買っていただいたり、逆にプレゼントを農家さんに贈ったりしていて。

そうしたやりとりをよく見ているので、単に「トレーサビリティ=安心」だけではなく、そこから広がる人のつながりがあると信じてきれているんだと思います。例えば最近廃棄バナナをアルコールにして「お米とバナナの除菌ウェットティッシュ」をつくるプロジェクトをANAグループ・全日空商事さんと一緒にやっているんですが、私たち自身バナナにとても詳しくなりましたし、産地であるエクアドルがとても身近に感じられるようになりました。

ものづくりをしていると生産や消費の過程で無駄になっているものや捨てられるものが、まだまだたくさんあることを痛感させられます。すると、他のことにも想いを馳せるようになって、あまりごみを出さないようにしようと自然と思えるんです。そういう広がりを生むのがトレーサビリティなんだと思います。

ファーメンステーションの産地ツアーの様子

“サステナブルな商品”ってなんだろう

ブランドではクリーンビューティやサステナブルであることも大切にされていますが、それぞれどんなことに気をつけているんですか?

クリーンビューティはもともと欧米から出てきた考え方で、肌や健康への影響はもちろん環境に悪影響を与えてしまう可能性のある成分や原料を使用しない化粧品のことです。もちろん原料だけでなく、パッケージが再生可能かどうかや物流や梱包における環境配慮も必要になってくると考えています。

特に化粧品や日用品は石油由来から植物由来まで、様々な原料を使います。ただ、石油か植物かはすごく大事にされていますが、植物由来のものがどのように誰が作っているのか、製造プロセスがサステナブルかどうかはまだなかなか明らかになっていないと思います。大量に作っている原料や輸入品も多く、実際に商品が届くまでにはいろんな業者さんが入っているといった業界事情もあります。

いわゆるサステナブルな製法で作られたアップサイクルな原料はまだまだ少ないのが現状。パッケージや成分などが議論になっているプロダクトが多い印象がありますが、ちゃんとサステナブルだと言い切れる原料をファーメンステーションはどんどん作り出して、信頼できる商品が増えていくお手伝いができると思っています。

ファーメンステーションが取り組む「未利用資源 再生・循環パートナーシップ」

何をもって「サステナブル」と言うのかはとても難しいと感じますが、ファーメンステーションとしてはどう考えているんですか?

私たちはパーパスとして「Fermenting a Renewable Society」を掲げていて、未利用資源が新たな価値になり、よりいいものになるなど「Renew」していることも大事だと思っています。あと、私たちが「サステナブルな取り組みをしています」というとき、まだまだ100%できているとは全く思っていないんですよね。

もちろんできる取り組みは進めていて、製造工程でできるだけエネルギーを使わないようにしたり、水の量を少なくしようとしていたり。工場の電力は自然エネルギーを使っていて、代替エネルギーとの契約も進めています。あとは副産物として搾りかすがどうしても出てしまうんですけど、他のものに活用することでごみゼロを常に目指しています。

製造工程における二酸化炭素の排出量の計算もやっていきたいですし、サステナブルだけでなく地域への還元など多方面でいいことが起こるようにしていきたい。自社の商品の一部は福祉施設の方に作っていただいたり、アロマのスプレーはネパールのフェアトレードの精油を入れたりしています。クライアントのオリジナル製品を作るときも、まだ試したことのない未利用資源が使えないかや容器の素材をよりよくできないかといったことを、毎回一通り検討しているんです。なんとかできないかと考えることを常に自分たちに課しています。大変なんですけど、それでも挑戦することを選んでいます。

1つの資源を徹底的に活用していろんな商品に使うことも目指せると思うのですが、いろんな資源を使うことを大切にされているんですね。

まず前提としては事業を拡大しないと、実現したいインパクトが全然出せないと感じています。私たちがやりたいのは、未利用資源がなくなる社会の実現や事業性と社会性が両立できる楽しさを伝えること。だから規模が小さいと全然何もできないんですよね。本当にまだまだで、休耕田をなんとかしたいと言っていますが、現状は使っている田んぼの量が大幅に増えているわけでもなく、もっと増やしていくためには事業としてスケールしなくてはと思っています。

いろんなことに手を出すとそれぞれ採算が取れなくて撤退するという判断になることもあると思いますが、どうやって乗り越えているんでしょうか。

スタートアップとしては、ちょっと変わっているかなと思います。一般的には1つの事業にフォーカスすることをよしとするじゃないですか。だけど今私たちが取り組んでいる4つの事業は、それぞれ必然性があってこの4つになっていて。原料を作り、その原料の活用方法を見せる手段として自社ブランドがあり、そのブランド認知によって「うちの商品も作ってください」というニーズからOEMが始まり、独自の技術をもっと活用するために多くの企業と協業しながら未利用資源から新しいビジネスをつくる。


短期でスケールさせないといけないスタートアップだと難しいと思いますが、私たちの場合小さいスケールで細々と10年以上時間をかけて4つの事業を作り上げてきました。そのベースがあるからこそ、時代のニーズにもあってきて今、私たちらしいチャレンジがスピーディーにできていると感じています。

酒井さんの一歩を後押ししたもの

酒井さんは金融系のお仕事を辞めて農大に入学し起業されましたが、その決断を後押ししてくれたものは何だと思いますか。

まずはこんなことになると思ってなかったからですね(笑)。異業種なのでものすごい大きな決断はしたとは思っています。ただ農大に入ったときは起業するつもりはなく、卒業後はバイオ燃料のコンサルティングをやる予定だったんです。

入学当時は代替エネルギーがすごく注目されていて、生ごみから車の燃料を作る時代がくるとよく語られていました。もともとそうした技術をマスターするために入学したんです。転身といえばそうなんですが、コンサルティングなら技術のことがわかれば金融業で培ったビジネス経験を生かしてできると思っていました。

実際在学中の研究活動の一環で岩手県奥州市でバイオ燃料製造実証実験のコンサルタントとして地域の方と一緒に取り組み、結果をレポートにまとめることをしていました。最終的に地域の方がそのビジネスをやっていく予定だったんですけど、実験する中でこれは採算が取れないとわかり、やりたい人がいなくなってしまって…。

赤字にしかならないとわかっていたら誰もやりたくないですよね…。

でも私だけはこれはいけるのではと思ったんですよね。やらないともったいないと言い続けていたら、じゃあ自分でやればいいじゃんとなって。「えーっ」と思ったんですけど、このプランを私以外の人がやっていたらすごく悔しくて絶対嫌だと感じたんです。

それで製造装置を買い、足りない機械を開発して実験を続けました。でも実験だけしてもビジネスにはならないので、ものを作って売らないといけない。それで初めて化粧品の作り方を学びました。ものを売ったことなんてないですから、上代の意味もわからないし、什器を持ってきてくださいと言われて、「じゅうきってなに…?」となったこともありました。ゼロからスタートして、時間をかけて今にいたるので、最初からこんなにいろんな人と関わって装置や在庫を抱えることになるとわかっていたら、やらなかったかもしれませんね(笑)。

自分以外の人がやっていたら「嫌だ」と感じたのはどうしてだと思いますか。

未利用資源を活用したり、お米からアルコールを作ることは自分でやりたいと思ったことでしたし、そのためにわざわざ会社を辞めてまで農大に入ったんです。でもちょっと実現できそうにないと思って諦めて就職したとして、いつか他の誰かが同じことをやっていたらやっぱり悔しい。同じようなことをやっている会社もなかったので、だったらもう自分でやるしかないと思えて。市場としても絶対くると信じていました。

今後どんなことに挑戦していきたいですか。

未利用資源を再生して循環させることが常識となる社会をつくりたいです。10年以上プレゼンをしてきて手応えを感じることは少なかったのですが、特にここ1年ほどで共感して一緒にやろうと言ってくださる方が個人でも会社でも増えてきたと感じています。

鍵はやっぱりプロダクトだと思っていて、どんなに循環や未利用資源と言っても自分ごととして想像しにくいですよね。でもお米と水だけでできたオーガニックライス・エタノールをシュッとつけてみれば、お米の香りがして感覚として伝わる。原料や商品の開発を続けて、いずれ世界中どこに行っても私たちが関わっている原料が含まれているプロダクトがある状況にしたいですね。

取材・執筆:中楯知宏
画像提供:株式会社ファーメンステーション

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