地球環境のことが声高に叫ばれるようになった昨今。地球のことを危ぶむ声は聞こえやすくなる一方、私たちは地球そのものの声をどれだけ聴くことができているのでしょうか。
そんな地球の“声”を伝えてくれる本の1つが、『WE EARTH 海・微生物・緑・土・星・空・虹 7つのキーワードで知る地球のこと全部』(以下、WE EARTH)です。この本では海や微生物など7つのキーワードをもとに、サイエンスや古来から培ってきた文化や思想など、さまざまな観点から紡ぎ出されるストーリーによって地球の全体像を紐解いています。
この『WE EARTH』の企画・案内人をつとめるのが、モデルやアーティストとして活動されているNOMAさん。小さい頃から未知なる自然を感じて知ることが大好きだったというNOMAさんが案内する、地球のこと全部を知る旅路。そこではどんな“地球”との出会いがあるのでしょうか。そして、地球のことを今より知ったとき、私たちにはどんな変化が生まれるのでしょうか。心を躍らせながら、NOMAさんにお話を伺いました。
世界はつながりあい、バランスを取りながら果てしなく循環している
『WE EARTH』では 「海・微生物・緑・土・星・空・虹」という7つのキーワードをもとに地球のことを案内されていますね。このキーワードはどうやって選ばれたんですか?
私の人生を少し遡ると、幼少期からずっと植物と宇宙を中心とした自然科学の探求をしていました。モデルの仕事を始めてからは、自分の恒常性の安定にいかに植物や土の力、呼吸や星のリズムなどが貢献してくれているのかを学んできました。その要素が『WE EARTH』で取り上げている「海・微生物・緑・土・星・空・虹」の7つのエレメンツです。
当初の企画では、これらのエレメンツを科学や人類がたどってきた文化や歴史をもとに紐解きながら、日々の暮らしの中で自身のウェルネスを保つために、何をどう実践してるのか紹介する構成を考えていました。ただ、私は科学や歴史の専門家ではありません。そして私自身は7つのエレメンツが繊細かつ複雑に絡み合うとても興味深い関係性になっていて、その関係性を紐解いていくことで地球のエコシステムがよくわかることに、ただただワクワクしていて。気候変動への対策が急務であることや社会システムのあり方が見直されていることを踏まえると、私がこれまで影響を受けてきた7つのエレメンツを語ってくれる先生たちと話をしながら、地球の全体像を紐解いていく本を作れたら素敵だなと考えたんです。
『WE EARTH 海・微生物・緑・土・星・空・虹 7つのキーワードで知る地球のこと全部』(グラフィック社)の色鮮やかなカラーイラストはすべてNOMAさん自身の作品(カッティングはしんかわまさみさん)。原画に使用しているインクは使用期限が切れたコスメを自ら粉砕したもの。NOMAさんいわく、「隅から隅まで地球のことを考えてこだわった本」とのこと。
『WE EARTH』では7つのエレメンツをそれぞれ紹介しながら、エレメンツ同士の関連にも多々触れられていて、つながりが見えてくるのが興味深かったです。そうした物事のつながりは日頃から意識しているんですか?
そうですね。例えば、特に微生物や空気などの見えない存在って、意識しないとその働きやつながりあいを理解しづらく、体感もしにくいと思うんですよね。だから、イラストも使いながら、なるべく微生物たちが今この瞬間もどうやって地球上のいろんな所でネットワークを結んでいるのかを、いかに感じてもらえるかはとても意識しました。全体的なつながりをこの本を通して伝えることは、大切にしているポイントです。
つながりを取り戻したり、自分の身体感覚として取り入れていくことが、結果的に恒常性やウェルネスを高めることにつながっていくと。
そう思うんですよね。モデルの仕事はスタミナ勝負なところもあって、私はどちらかというと心身の変化に敏感な方でバランスを崩しがちでした。体の恒常性が崩れたときに対処療法的な治療をしても、根本的な解決にはならないと自分のウェルネス史を通して感じています。
例えば、ホルモンのバランスが悪くなったときに、ホルモンを補充したら大丈夫、とはならないですよね。それって地球に対しても同じだと思うんです。場当たり的に対処すればいいわけではなく、何が原因でどういうバランスのゆがみが起きているのかを感じて、認知することが大切。自分の体もそうだし、地球もそうだけど、繊細なつながりを知ってないと、感じることも認知することも難しいんですよね。
逆に繊細なつながりを知っていると、感じた後の知っていくことや、さらに考えを深めていくことがもっと楽しくなるし、腑に落ちることもたくさん出てきます。いかにつながりあい、バランスを取りながら、果てしなく循環している世界の中で私たちが生きているか。そのことを実感すればするほど、「今」や「これから」の暮らしが豊かになると思うんです。
アニミズムとサイエンスを調和させる
地球とのつながりに関してだと、『WE EARTH』の空の章で「呼吸とはまわりの環境を、自分と一体化する行為でもあります」という捉え方が個人的にはとても新鮮でした。
とてもうれしいです。空の章もかなりこだわっていて、大気の話から呼吸や瞑想、仏教の「空(クウ)」の話へと、いろんな話題が広がっています。一見すると無関係に見えることのつながりを、明らかにしたかったんです。人間の体を小さな地球だとすれば、呼吸ひとつとってもバランスを崩すだけで、地球の酸素濃度も変わってくるんですよね。なぜ呼吸が浅くなっているのかを考えると、周囲の環境にストレスを感じていたり、忙しくしていたりと何かしら理由が出てきます。結局、全てつながりあっていて、そうした要因を一つひとつ紐解いていくことがすごく大切。
呼吸が周囲の環境と一体化する行為というのは個人的な感覚ではあるんですが、私たちが無意識になれる瞬間って、一つは呼吸を意識しているときだと思うんです。意識を呼吸に向けると、頭の中の情報やノイズが自然と消えていく感覚になる。特に、自然がある場所で呼吸に集中したり、自然と同化する気持ちでマインドフルな時間を送ると、気がついたら自分の肌に触れる風や耳に聞こえてくる生き物たちの息吹など、全部が同化して一つになっていく感じがするんですよね。
素敵ですね。著書ではサイエンスの視点も大事にされながら、NOMAさん自身の感覚はもちろん、月待信仰やアニミズムといった文化や思想にもたくさん触れられていますね。
サイエンスと人類が培ってきた文化や思想、両方の目線を大切にしたいんですよね。私自身は「感じて、知って、考えて」というプロセスを大切にしています。自然の中に生命を感じ、人間だけでなくすべてのものに霊魂が宿っていると考えるアニミズムの思想は、人々の「感じて、知って」得たこと、伝統的な考えや慣習を積み重ねて築かれてきました。特に先住民の文化や日本古来の自然観は、自然と人をわけずに、自然の一部としての人が感じたことをベースに築かれてきたものだと思います。
「感じて、知って、考えて」のうち、「感じる」ことが古来から培われてきた感性だとしたら、「知って、考える」ときにサポートしてくれるのがサイエンス。大切なのはどちらもバランスよく取り入れること。感性に寄り過ぎちゃうと、自分の認識でしか世界を見れなくなってしまいますし、逆も然りです。
認識の世界ってちょっとした視点の変換や新しい出会いによって、自分の認識する世界自体も広がっていくんですよね。それが人生の面白さでもありますが、一方で気がついたら、自分のレンズだけを磨き上げている状態になってしまいがちでもあります。でも「このレンズじゃないとダメ」とかはなくて、感じることに正解はないと思うんです。自分が認識した世界をシェアしながら、より豊かな価値観や感性を育み、受け入れあうことができたら素敵じゃないですか。
現代はどちらかというと、サイエンス色が強くなっているのかもしれないと感じました。
私が両方に共通して感じるのは、「謙虚さ」です。アニミズムの考え方や文化には自然に対する畏敬の念や謙虚さを、サイエンスには自分が感じたことを紐解き、答え合わせをしていく姿勢に謙虚さを感じます。アニミズムはときに原始的とも言われますが、むしろとても普遍的な感覚であり、文化です。サイエンスを「世界を客観的に知る姿勢」だとしたら、アニミズムは「世界の中にある生き方」そのもの。どちらかに偏るんじゃなくて、いかに調和できるバランスをそれぞれ取り入れるかを大切にしたいですね。
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取材・執筆:中楯知宏
プロフィール写真:akisome
提供写真:フォトグラファー 小渕真希子、ヘアメイク 長澤葵