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2022.02.16

循環の輪をあえてすぐに閉じない。発酵技術で循環型社会を目指すファーメンステーションの挑戦

with who?

株式会社ファーメンステーション代表取締役

酒井里奈

国際基督教大学(ICU)卒業。富士銀行(現みずほ銀行)、ドイツ証券などに勤務。発酵技術に興味をもち、東京農業大学応用生物科学部醸造科学科に入学、2009年3月卒業。同年、ファーメンステーションを設立。研究テーマは未利用資源を用いたエタノール製造、未利用資源の有効活用技術の開発。好きな微生物は麹菌。好きな発酵飲料はビール。東京都出身。

持続可能な社会について考えたとき、「循環」は大きなテーマの1つ。無駄なものを出さず、ものや資源を紡いでいくことは社会や自然にも負担をかけない理想のように感じます。

そんな「無駄のない」循環型社会を目指し、挑戦を続けている会社がファーメンステーション。未利用資源と呼ばれるこれまで廃棄されていた資源を発酵技術に活用して原料化。その原料を用いてサステナブルな化粧品や日用品を開発、さまざまなパートナーを巻き込み循環モデルをつくっています。

循環という理想に対し、事業を続けること10年以上。地道に、着実に歩みを続けてきた代表の酒井さんに話を伺いました。

すぐに循環させるより、つなげて広げる

ファーメンステーションがどんな活動をしている会社なのか教えてください。

私たちは「Femmenting a Renewable Society」をパーパス(Purpose)とした、使われていない資源を独自の発酵技術でアップサイクル(※1)し循環型社会をつくることを目指している会社です。一番得意なのはエタノールと呼ばれるアルコールや発酵原料を作ること。ごみを何とかしたいという想いもあり、あまり活用されていない資源を使うことを会社のルールとしています。

感染症の流行でアルコール消毒する機会が増えていますが、おそらく多くの方はアルコールが何でできているかまでは知らないと思います。そもそも成分表示を見ても、書いていません。現在国内で流通しているのは、石油由来か海外産のサトウキビやトウモロコシ由来のものがほとんどで詳細な産地まではわからないことが多いんです。

ちゃんとどこで誰が作っているのかトレースできるものを作りたいと思い生まれたのが、私たちの原点でもある「オーガニックライス・エタノール」。岩手の休耕田だった田んぼで作ったお米を原材料に、オリジナルの装置を使って製造しています。お米は有機JAS認定を取っていて、エタノールも「USDA NOP オーガニック認証(※2)」や「エコサートCOSMOS認証(※3)」を取るなど、国内で唯一オーガニック認証を得ているアルコールメーカーです。私たちのアルコールはお米のいい香りがするのも特徴です。

※1:本来であれば捨てられてしまうものに価値を与えることで、新しくアップグレードすること
※2:米国農務省(USDA:United States Department of Agriculture)が定める、有機認証プログラム(NOP:National Organic Program)
※3:オーガニックコスメ認証の世界シェア75%を誇るエコサートグループが定めるオーガニックコスメに関する統一基準

お米からアルコールができるんですね。循環にはどうつながっているんですか?

お米に限らず、いろんな原料を発酵・蒸留してアルコールを作っています。すると製造過程で残りかすが出てくるのですが、これがとても機能性のある優れた資源なので化粧品の原料にしています。ただそれだけだと使い切れないほど出るので、残りは鶏や牛のエサにもなっています。

循環の観点からはここで終わりません。鶏や牛はいいエサを食べることになるので、よりおいしい卵ができますし、栄養価の高い糞も出してくれます。糞は田んぼや畑の肥料になり、米や野菜、ヒマワリなどができます。ヒマワリからは油が取れるので、食用油として販売したり化粧品原料にしたりしています。

ファーメンステーションが取り組む『循環型社会』

どんどんつながって次に生かされていくんですね。

資源を無駄なくつなげていくことで、いろんなものやビジネスが生まれていきます。例えば、私たちが原料として使っているリンゴの搾りかす。通常搾りかすは廃棄してしまいますが、アロマ製品やウェットティッシュにしたり、そこでまた出てくる残りかすも餌にしたりと循環させるために使っています。今は使われていないけれど、私たちの技術を使ったらもっと価値の高いものにできることがたくさんあるんです。

他にも化粧品や日用品のオリジナルブランドや原料の販売、企業の商品開発なども手がけています。自分たちだけではなく、いろんなパートナーさんと一緒に広げていくことに意味があると思うんです。未利用資源から作ったものがいいものと認められることや、アップサイクルした原料を使いたいというトレンドを生み出していきたくて。ただ私たちだけでは実現するのは難しいので、いろんな仲間と一緒に取り組んでいます。

循環は円のようにぐるっと元に戻っていくイメージがあるのですが、どう戻っていくんですか?

あえて戻さないんです。もし普通にまん丸に循環させようとすると、例えば鶏糞はアルコール用のお米を作るところに戻すんですよね。すると野菜やヒマワリは取れなくなり、結局お米しかできない。それってファーメンステーションの商品しかできないじゃないですか。でも、鶏糞を別の田んぼや畑に使うようにすると、循環がどんどん広がっていきます。

そうやって広げていくと、関係する仲間も増えてくる。鶏糞を使ってくれた人は勝手に全員仲間だと思っています(笑)。鶏糞からヒマワリができ、ヒマワリから油を搾るのは地域の方々。そうやってどんどん人を巻き込みながら、螺旋状に大きくなる循環の方がおもしろいと思っています。

いずれどこかで輪になるかもしれないけれど、まずは循環の輪をつくることよりもつなげて広げていくと。

ステークホルダーが多いのが私たちの特徴で、事業を運営する観点ではとても大変なんですが本気で事業性と社会性を両立させたくて。だから地域にポジティブなインパクトを与えることも会社の命題の1つなんです。

私たちの取り組みに共感してくれたお客様が、直接農家さんからお米を買ってくれたこともありました。ファーメンステーションの売上にはならないですが、そうしたことが起こる方が嬉しいですし、そういう取り組みをしている農家さんがいることも知ってもらいたいんです。

ファーメンステーションはまだまだスタートアップで、ベンチャーキャピタルからの出資を受けている会社ですし、事業性が大事なのは大前提としてあります。でも会社が大きくなる過程で関係するみんなにもいいことがあるビジネスに挑戦したいんです。

人間にとっていいものを生み出すのが発酵

独自の発酵技術を使われていますが、目指している循環との相性もよさそうですね。

発酵技術は1つの原料から複数のものを作ると捉えることもできるんですよね。お米からエタノールを作りつつ、米もろみ粕という原料も生み出している。製造過程で出てくるものが多ければ多いほど、関係する人を増やせる可能性に満ちているんだと思います。

無駄なものが生まれないんですね。

発酵の定義は「微生物のはたらきによって有機物が変化し、人間にとって有益なものになること」。だから発酵である限りは絶対によくなります。お米がエタノールと発酵かすになるとき、発酵かすはお米より絶対いいものになるんです。

だから無駄なものは発生しないし、何かを捨てるということが起こらない。私たちが作るすべてのものに価値があるので、それをうまく使ってくれる人さえ見つかればごみをゼロにできます。

例えばりんごからリンゴジュースを作るとき、ジュースと搾りかすができます。通常搾りかすは産業廃棄物として処理されますが、発酵させることでアルコールが取れるんです。さらにアルコールを作るときに発生する「かすのかす」はもとのりんごの絞りかすよりずっといい香りだったり、牛の餌としても絞りかすより発酵した後のかすの方が食いつきがよかったりするんです。


ファーメンステーションのプロダクトの原点となった「オーガニックライス・エタノール」。エタノールそのものの製造日や場所はもちろん、原料となっているお米をいつ、どこで、誰の手によって田植えをし収穫したか、お米がまだ種もみだった頃まで遡ることができる。

どんどんよくなっていくのはすごいですね。ファーメンステーション独自の発酵技術にはどんな特徴があるんですか?

大前提として多種多様な原料からアルコールを作っている会社が日本にはほとんどありません。使ったことのある原料は100種類を越えると思います。だから私たちができていること自体がおそらく独自だと思います。その上で特徴としては、私たちのアルコールはすごくマイルドな香りがすること。消毒用アルコールってツーンとした匂いが苦手な方もいると思います。あと肌に触れたときにあまりスースーしないとおっしゃるお客様が多いですね。

詳しい技術は企業秘密ですが、製造工程の各所で様々な工夫をしていますし、発酵してできるかすにもできるだけ機能性を残せるような処理をしています。装置もオリジナルですし、私たちがずっと試験管を振り続けて17年工夫を積み重ねてきた結果です。

りんごやバナナなどいろんな原料を活用されていますよね。それぞれ同じ技術を応用できるものなんでしょうか?

全部イチからではないですけど、ベースの技術はありながらもかなりカスタマイズしています。やはり原料の組成が全然違うので、例えばお米だと糖質が多いですけど、りんごの搾りかすや柚子の搾りかすは繊維も多く糖質は残っていません。また同じ原料でも形状や状態もバラバラなので、何がベストな発酵なのか、原料の香りを残すためにはどうしたらいいのか、毎回細々と調整しています。

開発には1年以上かかるものもありますし、早いものだと数ヶ月で商品化までできるものもあります。微生物さんたちが頑張って働いてくれています(笑)。

未利用資源のアップサイクルで生まれたプロダクト


微生物も応援されると頑張ってくれる

発酵は微生物が頑張ってくれているお陰ですもんね。

私たちは微生物の中でも酵母に頼ることが多いんですけど、働き度合いは環境にすごく左右されます。最適な温度やpHなど、酵母にとってのベストな環境があって、その状態になるとめちゃめちゃ頑張ってくれる。特に酵母は活動している様子が音や見た目、香りでわかるんですよ。

音や見た目というと…?

プチプチプチって音を出したり、プクプクとどんどん湧き出てくるとか。五感でわかるんですね。いい音を出しているときはすごくかわいくて、「頑張って!」という気持ちによくなります。微生物の専門家からは「声をかけてあげるといいよ」と冗談半分で言われたこともありますが、応援されると頑張れるのは人間と似ていておもしろいなと。工場に行ったときには「がんばってね。よろしくね」と声をかけています。

発酵がより愛おしく感じてきました。

私自身発酵食品がすごく好きで、日常的に食べています。特に好きなのが地域の発酵食品。例えば新潟の雪深い地域で食べられているお漬物や熟れ鮨って、文化そのものじゃないですか。土地に根付いた微生物や菌がいて、風土にあったものができる。発酵や文化を知ることから生まれる楽しさがあると思いますね。

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取材・執筆:中楯知宏
画像提供:株式会社ファーメンステーション

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