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2022.01.24

二元論を越えて、共に生きる世界へ。医師・桐村里紗さんと考える、人と地球の健康

with who?

tenrai株式会社代表取締役医師

桐村里紗

臨床現場において、最新の分子栄養療法や腸内フローラなどを基にした予防医療、生活習慣病から終末期医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。食や農業、環境問題への洞察を基にした人と地球全体の健康を実現する「プラネタリーヘルス」など、ヘルスケアを通した社会課題解決を目指し、さまざまなメディアで発信、プロダクト監修などを行っている。
東京大学大学院工学系研究科・光吉俊特任准教授による社会課題を解決する数式の社会実装により人と社会のOSをアップデートすることを掲げたUZWAを運営。2021年より東京と鳥取県米子市の2拠点生活を送り、土と向き合う生活を送っている。新著『腸と森の「土」を育てる 微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)が話題。
https://tenrai.co/

健康になりたければ、人だけを考えていても実現できず、地球全体で考える必要がある。そして身近な食を通して人と地球の健康を同時に実現することができる。前編ではその理論と実践についてご自身の体験も交えながら語ってくれた桐村里紗さん。

インタビュー後編となる本記事では、いかに「人と自然」「心と体」といった分断を乗り越え、共に生きる世界を実現できるのか、力強く語ってもらいました。

アナログの循環から心身の健康を取り戻す

著書『腸と森の「土」を育てる 微生物が健康にする人と環境』の食に関連した話の流れで、「日本人は海外の人と比較すると、わかめなど海藻を分解する菌を多く持っているので、日本人にはすごくいい」と語られていました。人によって菌が多様であることを踏まえると、住んでいる地域に根ざしたものを食べる方が腸や自然環境にもよいのでしょうか。

「地元や旬の食材が身体にいい」という身土不二の考え方があるように、自分の身体を季節に適合させるために、旬のものを食べることは大事ですね。例えば春は苦味のあるものが多いですが、冬に溜め込んだ毒素を排泄する効果があって、実際解毒効果が高いものが多いです。夏には体を冷やす効果があるカリウムを含む野菜が多い。旬のものを食べることで自分を環境に最適化できるんです。

それからやはり地のものを食べる方がその土地の菌を摂取できますし、輸送コストも低いので理にかなっていると思います。自分の暮らしている土とつながるという観点では、家庭菜園もオススメです。ただし、農薬や化学肥料、それから耕す行為自体は、土の微生物のバランスを崩し、生態系や環境に負荷を与えてしまいます。そのため私自身は無農薬・無施肥・不耕起を基本としながら、生態系を豊かに拡張する協生農法™️(シネコカルチャー™️)※を実践しています。わずかなスペースでもできるので、プランターや裏庭の空いている場所を使って野菜や植物を育ててみるのもいいですね。そこから小さな循環が起こりますし、土地と自分が循環していると体感しやすくなると思います。

理論だけじゃなくて、自分が土地で暮らしていて、そこで育ったものを食べ、土地をお腹の中に取り込んでいるという循環を体感する。その感覚は腑に落とすためにはとても大切だと思っています。だからちょっとでもいいから、何かつくってみることをおすすめします。

※「協生農法」は株式会社桜自然塾の登録商標、「シネコカルチャー(Synecoculture)」はソニーグループ株式会社の商標です。

感染症が流行してから、家庭菜園や観葉植物など日常に自然を取り入れる人が増えたようにも感じます。

新型コロナウイルスの影響で世界中がオンラインでつながりあったよさがある一方で、アナログの循環が圧倒的に切れてしまっていると感じています。アナログの循環を取り戻す意味でも安心安全な環境で土に触れ、人と交流することはとても大切。これは人間の自律神経にもすごく関係していて、新しい自律神経の理論であるポリヴェーガル理論で言われている「自律神経がうまく働くためには全身の自律神経の指揮者のような役割をしている腹側迷走神経複合体が機能する状況」が必要で、その状況が「安心感があること」なんです。

自分が身を置いている環境が安全で、敵がいなくて大丈夫だと感じられることが前提にないと、冒険や遊びを司る交感神経や内臓を動かす背側迷走神経複合体という自律神経が上手に働きません。今の世の中で問題だと思うのが、ウイルスの流行によって「世界は危険だ」と認識されてしまっていること。実際はもっと複雑な話ですがあえて単純化すると、世界はとても危険な場所という潜在的な恐怖心を持ちながら生きていくことになります。

安心だと感じることが、腸などの身体の健康にも大事なんですね。

自律神経と免疫系は強くリンクしているので、自分の周りの環境が危険だと脳が認定すると、マルチアレルギーの状態になってしまうことも実際にあるんです。それを解消するためにも、自分が安全だと思える自然環境に行き、共生的な微生物まみれの中でダイナミックに自由に遊ぶことはすごく大事なことだと思います。

オススメの活動の1つが農作業。畑を借りて農作業をしたり、プランターで野菜を育てたり。自然との一体感は自分の周りの環境は安全なんだと体で学ぶことにもつながり、自律神経とストレス反応を落ち着かせることができます。

目に見えないウイルスが流行している社会ではストレスが積み重なりやすく、背側迷走神経がフリーズして心身もフリーズしてしまいます。そういった差し迫った状況なので、ストレスを解放してあげる体験がすごく大事になってきています。

心と体、人と自然。二元論を越えて共に生きる世界へ

個別最適から全体最適を目指すことは、プラネタリーヘルスの考え方にも共通するところがありますね。

そもそも人間は目を開くと必然的に世界を分離して見ているんですよね。人は五感から情報をインプットしていますが、目に見える可視光線や耳に聴こえる可聴域といった「部分」しか感知できません。これは人類共通の前提条件みたいなものです。私とあなたは分離しているし、私と自然も分離している。目に見えるものはすべてバラバラで、部分しか見えない。一方でつながりは目に見えないから、全体を認識できなくなってしまう。

先ほどデジタルとアナログの循環の話をしましたが、そもそもデジタルとは0や1といった数えられるバラバラなもので、アナログは連続したものを意味しています。私たちはバラバラでありながら連続しているという、デジタルとアナログの両方認識できる機能を備えているにも関わらず、普段はデジタルにバラバラとしてでしか世界を認識していない。

いろんな社会課題や病気がありますが、すべて人間の意識がつくり出したものですよね。行動は意識がベースにあるので、まずは人間の意識を変えていかないと社会課題は解決しません。そこで私たちは東京大学大学院工学系研究科の光吉俊二特任准教授と一緒に「UZWA」というプラットフォームを作り、人間の意識が生んださまざまな課題を解決する取り組みを始めています。

人間の意識の何がさまざまな課題を生んでいるのでしょうか?

具体例がわかりやすいと思うので一例をお話しすると、まずりんごが1個あります。これを2個に割ると、数式的には0.5か1/2(2分の1)ですよね。私たちはその答えを疑うことはありません。でも実際にりんごを包丁で切ってみると、半分がなくなることは現象として起きません。りんごは2個に分かれてもそれぞれ残っています。ということは1割る2をして答えが1/2と半分消してしまうことは人間の脳内、意識でしか起こっていないことなんですよね。

これは割り算的思考で、二元論で分けて一方を排除するという意識にもつながっています。この世界は、対極の要素が重なり合って成り立っていると言えますが、そのどちらかが偉いということはありません。男と女、心と体、内と外、自己と他者などの要素は、どちらが良い、偉いというものではなく両方が必要です。割り算的思考の働きがいろんなところに現れて、さまざまな対立や社会課題となっているのだと思います。

光吉先生はこれまでの四則演算(足す、引く、掛ける、割る)では表現しきれていなかった世界の本質を表現するために、「四則和算」を生み出し新たに「切る、動く、重ねる、裏返す」という4つの機能を加えました。りんごを切っても半分は消えず、両方残ることが素直に表現できます。さらにこれを応用すれば異なるように見えるモノの裏にある共通土台もわかって本質が見えるようになり、互いの違いを尊重しながらも共通する本質に共感しやすくなります。


四則和算を使って共通する本質に共感するようになると、社会にはどんなことが起こるんですか?

この新しい数式は、もともとはロボットがどうしたら自我や共感力を持てるのかという研究がベースになっているので、意識まで計算できます。これをもとに共感力を持った愛あるロボットをつくる技術なのですが、大事なのは人間が理解して意識を変えていくことだと思います。

今のコンピューターは0と1で表現されるデジタルですから、アナログを表現できず不完全です。光吉先生が提案するのは、デジタルとアナログを重ね合わせた「クオンタル(Quantal)」。これを応用したクオンタルコンピューターの登場によってようやく、ロボットと人間が真のパートナーになる可能性がでてきます。

そんな時、人間がデジタルにしかものを考えられないままでは、本末転倒です。人間の意識が変われば、さまざまな分野でイノベーションが起こり、地球上のいろんな課題が解決できると思います。ちょうど先日、革新的な中高一貫校であるドルトン東京学園で試験的にゼミを実施してみましたが、生徒さんたちのワクワクする様子を見て、未来ある若い世代が四則和算を理解することで世界は変えられると確信しました。

桐村さん自身がそうした二元論を越えて世界を捉えることができた体験はありますか。

私が鳥取県米子市に開いている畑を観察すると、多様な植物や生き物が混生していることがわかります。微生物や昆虫、鳥などの動物、そして畑に関わる私や仲間。目に見えるのは複雑多様な世界ですが、これらの共生関係の中で土を共通土台として、一つの連続的なシステムが形成されています。

よく「多様性が大事」と言われますが、多様性だけを追求してしまうと、世界はカオス化してしまいます。多様なものが重なりあい、響き合って1つのハーモニーを奏でている状態こそが、本当に美しいプラネタリーヘルスだと感じます。他者や異分子、人以外の生物種や微生物を排除することがウイルスの影響もあって主流になってきているのかもしれませんが、すべての生命が生かしあい響きあうという「シン・世界」を奏でるのがプラネタリーヘルスだと思うんです。

鳥取県米子市で桐村さんが携わっている畑

「アンチ(戦い)」から「シン(共に)」へのシフトについては著書でも大事なメッセージとして語られていましたね。

目を開くと分断された世界において、いかに裏にある共通性やつながりを感じながら生きていけるのかが本当に大切だと思っています。実際はつながっているんですけど、なかなか認識するのが難しいですよね。確かにつながっていることを、日常の中で体感して腑に落としていくことがすごく大事。

ある程度知識がないと認識することが難しい側面もあります。情報と体験の処方、双方からつながりを再接続していくことをやっていきたいですし、それが結果的にプラネタリーヘルスになると思っています。

取材・文:中楯知宏 写真提供:桐村里紗

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